菅政権が誕生した。安倍晋三首相が潰瘍性大腸炎(蓋然性の高い仮病説あり。ただしこの件には今は立ち入らない)により辞任してから、自民党新総裁は地方党員の投票権も顧みず密室談合によって決まってしまった。この間、各候補間で政策論争もろくに行われず、代わりに行われたのは政局争いである。そして悪いことには、メディアもまた各候補の政策について徹底的に検証することがなく、視聴者に対して政局にばかり関心を抱かせるように誘導していた。これまで、安倍政権に対するメディアの「忖度」が問題視されていたというのに。結果的に選ばれたのは、安倍政権路線をそのまま継承する菅義偉氏である。当初有力視されていた安倍政権路線懐疑派の石破茂氏は見事に梯子を外された。与党自民党には歴史的に見ても政策よりも政局を過剰に重んじる傾向が歴史的に強かったが、安倍政権発足以後その度を増したと思う。このことは自民党自身がまず是正すべきであるし、またメディアが徹底的に批判的見地から政策論争を促すべきだと思うのだが、そのような気概は今回の総裁選において看取することが出来なかったのは残念である。しかも、総裁選選びの過程で最も有力であることが露見した菅氏についての人物評は、週刊誌のゴシップ記事レヴェルの事柄ばかりが目立っていた。秋田県出身で高校卒業後に集団就職で上京した苦労人で(こちらも粉飾と歪曲があることが判明しているが、ここでは立ち入らない)、スウィーツ好きだ、等々。「庶民派」であり世襲政治家でもないぶん、国民に寄り添えることを自他ともにアピールしているが、それが偽善に満ちた詭弁であることは、これまでの官房長官時代の数々の記者会見の風景を思い起こせばすぐ分かるだろうに。それを象徴的に示すのが、各TV局が見て見ぬ振りをする東京新聞望月衣塑子記者の質問への無視および愚弄であろう。
安倍政権が終焉を迎えたのちに行われるべき事柄はあまりにも多い。一言で言えば、政治的、社会的、経済的、倫理的とあらゆるレヴェルにおいて徹底破壊されたこの国の再建である。この政権の末期には黒川検事長定年延長事件でツイッターやデモを通して国民の怒りがかつてないほど増大していた。その前哨として、これでもかとばかりに森友事件、加計事件、サクラゲート事件が立て続けに起こったからである。安倍前首相が関わった疑獄あるいは犯罪事件としては、これら4件以外にジャーナリストの山口敬之氏による伊藤詩織氏強姦事件の揉み消し事件と、河井夫妻贈賄事件がある。前者においては直接安倍前首相が手を染めてはいないものの、「安倍トモ」と言われる警察官僚の中村格総括審議官が山口氏への逮捕状執行停止をした重大な経緯がある。後者については改めて書くまでもない。新政権成立後にはこれら6件に対する立件と捜査が必須であったはずであり、現に石破茂氏は新総裁となった暁には森友事件と加計事件の捜査をすると述べていた。しかし、安倍政権の延長にすぎない菅政権下では河井事件を例外として、これらは絶対に行われないだろう。これら疑獄および犯罪事件について徹底的に追及する倫理と実行力を兼ね備えているのは、主要野党だろう。その中で最も期待出来るのが日本共産党ではあるが、周知の通り、現実的には政権に就くことは現状はほとんど不可能である。したがって、新たに発足した立憲民主党には次期総選挙で政権交代を是非とも目指して欲しいと思う。もう既に、自民党圧勝を占って選挙民を誘導しようとする悪辣なメディアもあるが。