7月18日のチェンバロ・コンサートについて

 7月18日に三軒茶屋の新しいコンサート・ホール、サロン・テッセラにて開催された、「Hommage to J.S.Bach 〜祈り」というチェンバロ・コンサートにて作品発表を行った。チェンバロ奏者の北條祐子さんによる新作委嘱を受けて作曲したチェンバロ曲『我信ず、この道を』という楽曲である。プログラムはバッハの楽曲を中心に構成されていたのだが、戦争の絶えない世界に向けて祈りの気持ちを音楽に込めたいという、演奏家の開催意図に合うような楽曲を、ということで新たに書き下ろしたのであった。以下、当日のプログラムに掲載された楽曲解説を引用する。

〜以下、楽曲解説

 ロシアのウクライナ侵略に限らず、第二次世界大戦終結から80年近く経とうというのに未だ、世界は戦争が絶えない状況にあります。音楽で実効的に戦争を根絶することは出来ませんし、この度の演奏会タイトルにある「祈り」が持つ、その純粋性と根源性を以てしてもそれは同様でしょう。私は本作において、平和と真実が戦争と虚偽に対して持つ優越的かつ卓越的なイデアを、求道的に追求して行く人間の姿を描こうと試みました。4つに分かれる各部分は複雑な転調を孕みつつ、順にト短調、ロ短調、ニ短調、ニ長調と上昇して行きます。新作を委嘱して下さった北條祐子さんに深く感謝申し上げます。(小森俊明)

 短文ではあるが、ほとんど付け加える必要の無い文章であり、今後再び作曲するかも知れない戦争と平和に関する楽曲においても、上に書かれているスタンスは変わりないであろう。取り急ぎ回避したいのは、音楽は無力ゆえこうした創作は無意味であるという、一種の冷笑を伴った諦観である。

 最後に会場の音響とコロナウィルス対策について付記したい。会場のサロン・テッセラの音響設計は永田音響設計によるものである。高い天井、壁面の多くを占める打ちっ放しのコンクリートと僅かな吸音材の絶妙なコンビネーションにより、各楽器(今回、チェンバロ以外にチェロとヴァイオリンも登場)の音像が明瞭に分離され、バッハ楽曲の入り組んだポリフォニーの各声部が手に取るように聴こえ、大変満足の行く聴取経験であった。一方コロナウィルス対策としては、定員数が最大収容人数の半数に厳格に遵守され(コンサートのチケットは全席完売であった)、来場者が会場に入る前に洗面所で石鹸を使っての手洗いを促された。そして休憩時間になると全てのお客がホワイエに退場させられ、換気が行われた。加えて、プログラムの前半と後半の途中でそれぞれ一回ずつ扉を完全に開放した状態で3分間の換気も行われた。コロナウィルス・オミクロン株の変異型であるBA5株が増加しつつある中にあって、周到かつクレヴァーな感染対策であったと言えると思う。

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