さて、件の拙作は、戦争を引き起こそうとする大人たちが存在しないが為に平和を享受し得ている想像上の国を描いたものである。とは言え、戦争以外の不幸や悲しみは社会のあらゆる次元において存在している。そもそも音楽というのは、たとえ子ども向けのものであっても、プリンシプルとしては明暗の要素の双方があってはじめて存在し得えるものであると考えている。本作における「暗」の要素は、短調(minor)への一時的な傾倒や、長調(major)の清澄なメロディーの奥に潜んでいるかの如き悲しみのニュアンスに表象されていよう。
ところで、アニュアル・コンサート「こどもたちへ」にて筆者が作品発表をしたのは、今年が2020年以来5回目であった。これまでに『氷上のエチュード』(スポーツ)、『仲直り』、『東横特急、快走!(電車遊び)』(外遊び)、『古風なリゴドン(クラヴサン弾き)』(楽器)、それに今回『架空の国のお話』(世界の国)を発表して来ている(括弧内は各年のテーマ。記載の無いものはテーマ無し)。筆者は2010年より、横浜市内の保育園の卒園児に向けた合唱曲を40曲以上作曲して来たが、その中で、子ども向けにピアノ曲を作って世に出すことにも関心を覚えるようになっていた。合唱曲提供先の保育園は、極めて独創的でリベラルな反戦平和教育の方針とその実践で知られる名保育園であり、その延長で子ども向けピアノ曲を作り、発表することは、ごく自然なことであったのかも知れない。