拙作『東横特急、快走!(電車遊び)』について

 先日、紀尾井ホールで行われた「第38回こどもたちへ ーJFCキッズBOXコンサートー 28人の作曲家によるピアノコンサート『外あそび』」にて、自作自演(『東横特急、快走!(電車遊び)』)を行った。この曲は、踏切を通過する東横特急の情景を具象的に音化した冒頭と終結部が、東横特急の渋谷〜横浜間の快走シーンを抽象的に音化した主要部を挟む構成となっている(直通先の東京メトロ副都心線と横浜高速鉄道みなとみらい線の区間は省いている)。楽曲中に現れる踏切の警報音は実際のピッチであるC♯5-E5の重音を、同じく電車の警笛音はF4-A♭4の重音を用いている。一方、踏切を通過する電車のジョイント音(レールの継ぎ目を通過する時の所謂「ガタンゴトン」の音)のピッチを設定するのは難しいものである。この解決法については、実際に出版楽譜をご覧いただけたらと思う。なお、電車のジョイント音の回数は、かつて走行していた8両編成に設定しているのだが、それは、現行の10両編成を律儀に模してしまうと楽曲としては冗長になってしまうからに他ならない。一方、主要部においては前述の通り具象的な音化は行っておらず、現代のポップスあるいは西洋近代のスタイルによるコード進行を主体とするパッセージを用いている。子ども向けのこの種の作曲にあたっては、小中学生に照準を当てた演奏テクニックを用いてはいるものの、如何にも子どもらしいと感じさせてしまうニュアンスを持った音の身振りを纏わせることを一切避けており、大人が弾いても子どもっぽい楽曲だと感じることが無いように心掛けている。それはこの曲においても例外では無い。

 この曲を聴いて下さったかたがたの反応は概ね想像通りであったが、お一人、一風変わった興味深い感想を述べて下さったかたが居られた。民俗音楽/民族音楽の研究もされている内田満開さんである。ここにご紹介させていただこうと思う。

〜以下、引用開始

 踏切での信号の待ちあわせなど、100年先の人は想像だに出来ないだろう「踏切」を表現している民俗学的にも面白い作品でした。あの踏切の待ちあわせの情景を描いて、将来、どれだけの子供達が想像豊かに演奏してくれるだろうか?今、大人の世代でも人力車を見たこともなく、何それっ?ていうのと同じく歴史は繰り返されると苦笑します。しかし、後世の人が(映像が存在するので後世の人にもだいたいわかって頂けるでしょうが、それをこの時代の人が、この曲のようなイメージで描いていたのかという)過去の歴史を解明する感覚的な史料になり得ると感じています。

〜以上、引用終わり

 なるほど、楽曲中の描写シーンが民俗史(誌)の一端をなし得るというご指摘は目から鱗で、民俗音楽を研究されている内田さんならではの視点だと思ったことである。音楽作品も例えば映画作品と同様に、アーカイヴ性をやがて帯びて行くということなのであろう。ともあれ、作品というものは作者の意図や思惑とは異なる受容のされ方をする場合がある。それを知ることは作者にとっても新たな知見を得ることであり、感慨を覚えることすらあるのだ。

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